講義等

カプセル化関連

 講義や研究室紹介などで使用しているカプセル化に関する資料や教材です。

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マイクロカプセルの作り方

マイクロカプセルの作り方は,そのカプセル壁の作り方によって,

・化学的方法
・物理化学的方法
・物理的・機械的方法
に大別されます。次にそれぞれにつくり方について説明しましょう。

(1) 化学的方法

 化学的方法は,化学反応を利用してカプセル壁を形成し,マイクロカプセルをつくる方法です。この方法には界面重合法とin-site重合法があります。 はじめに,界面重合法について説明しましょう。

A(反応物)+B(反応物)→C(固体反応性生物=カプセル壁)
のような反応によってマイクロカプセルを生成する方法です。

 カプセルの生成機構をわかりやすく図で示すと図1のようになります。

図1 界面重合法によるマイクロカプセル化

まず,芯物質が溶解していたり,あるいは分散している水溶液に反応物Aを溶解しておきます。この水溶液を油相に注入して激しく攪拌すると,水と油は溶け合いませんので,水溶液は小さな液滴となって油相の中に分散します。このような分散系をW/O分散系といいます。すなわち,Wは水滴となっている水相を表し,Oは油相を表しています。このような分散系に、油相に溶ける反応物質Bを注入すると,水滴内に溶けている反応物Aとの反応が水滴と油相の界面でおこります。そうすると反応物質Cが水滴を囲むように生成されるため,カプセル化が行われます。このような機構によって芯物質のカプセル化が完了するためには,反応が非常に速く進行しなければなりません。このために,ヘキサメチレンジアミン(反応物A)とセバコイルジクロライド(反応物B)によりナイロンが生成されるような重縮合反応がよく利用されます。このように,液体(水相)と液体(油相)との界面でおこる重合反応によってマイクロカプセルをつくるために界面重合法とよばれています。水相と油相の順序を入れ換えても同じ方法でマイクロカプセルがつくられます。この倍異には,芯物質は油溶性であったり,あるいは,油相に分散した状態にあります。

 つぎに,in-situ重合法について説明しましょう。in-situは,「本来の場所で」とか,「もともとの場所で」という意味があります。この方法にも何種類かに方法がありますが,最も簡単な方法を紹介しましょう。界面重合法とちがい,まず一種類の反応物だけを芯物質溶液の中に溶解させておきます。この反応物質として,モノマーとよばれる物質が多く利用されています。このモノマー同志が,多数結合して分子量の大きいポリマーを生成し,カプセル壁となります。このようにして,マイクロカプセルが生成されます。

(2) 物理化学的方法

 物理化学的方法は,凝固,析出等のように,化学反応によらないでカプセル壁を形成する方法です。代表的な方法として,液中乾燥法によるマイクロカプセルの生成機構を図2に示します。

図2 液中乾燥法によるマイクロカプセル化

 カプセル壁を形成する物質(普通はポリマー)を油相W1に溶解します。ここに,芯物質(油に溶けない物質や水溶液)を注入して激しく攪拌すると,芯物質は微小滴となって分散し,W1/O分散系が生成されます。この分散系を別の水相W2に注入して攪拌すると,微小滴が分散した油滴が,さらに水相に分散したような系が出現します。このような分散系を(W1/O)/W2分散系といいます。ここで,系全体の温度を高くしていくと,カプセル壁となる物質を溶解している油相が蒸発していき,この物質の濃度が濃くなっていきます。そして,最終的にはカプセル壁が形成され,マイクロカプセルができあがります。この状態は、海水を煮詰めていくと塩分が析出してくるのと同じであり,この塩分がカプセル壁を構成していくと考えればよいでしょう。したがって,カプセル壁を形成する物質を溶かす油相としては,ベンゼン・トルエン等低沸点液体が選ばれます。また,これらの油相に溶ければどのようなポリマーでもカプセル壁として利用できます。

 つぎにコアセルベーション法について説明します。この方法による生成機構を図3に示します。

図3 コアセルベーション法によるマイクロカプセル化

 まず,カプセル壁を形成する物質を油相に溶解しておきます。ここに芯物質となる水相を,はげしい攪拌によって微小滴とし分散させておきます。このようなW/O分散系の油相にカプセル壁物質をよく溶かすことのできない液体(これを貧溶媒といいます)を注入していきます。すると壁物質の溶解度が低下するために,壁物質が微小滴をとり囲むように析出してきます。あるいは,W/O分散系の温度を下げてもカプセル壁物質の溶解度が低下しますので,同様にカプセル壁が形成されます。

(3) 物理的・機械的方法

  機械的方法に属する代表的な方法として,噴霧乾燥法と乾式混合法があります。まず噴霧乾燥法について説明しましょう。芯物質(微粒子の固体や液体)を,カプセル壁となる物質を溶かした液体に投入します。これを噴霧状にして,熱風中に吹き出します。すると,カプセル壁物質を溶かしている液体が蒸発するためにカプセル壁物質が残り,マイクロカプセルが生成されます。

 つぎに乾式混合法について説明しましょう。

 図4 乾式混合法によるマイクロカプセル化

図4に示したように、芯物質(これを親粒子よぶ)と,この芯物質の1/10くらいの大きさの粒子状のカプセル壁物質(これを娘粒子とよぶ)を混合しながら機械的な力を加えていきます。そうすると,カプセル壁物質が圧縮されて,芯物質粒子の表面を被うようにカプセル壁を形成していきます。このようにしてマイクロカプセルが生成されます。これは,あたかも,オニギリのまわりにゴマをつけるようなものです。このような方法を繰り返せば,性質が異なる物質で二重三重のカプセル壁を形成することができるためまったく新しい機能を持ったマイクロカプセルが生成できます。

以上,マイクロカプセルの製造方法について説明してきましたが,どの方法を利用してマイクロカプセルをつくるかは,

・カプセル化しようとする芯物質の性質(たとえば,高温では変質したり分解する,酸やアルカリに侵される,水に溶けにくい等)
・マイクロカプセルにどのような性質をもたせようとするのか(徐放性,保護・隔離,機械的強度等)
・製造コスト

によって決まります。基本的には、どのような物質(固体、液体、気体)でもカプセル化することは可能です。(田中)